檸檬の無為な日々

思考の外部ストレージです。

”愛してる”は照れくさい-バレンタインチョコが照らすコミュニケーションの姿-

今回は、オススメの本を紹介します。

 作家の小川洋子さんと、生物学者岡ノ谷一夫さんの対談を収録した本です。面白かった話をほんのちょっとだけ紹介するので、気になった人は是非。

 

愛の儀式

 みなさん、白鳥はご存じだと思うのですが、彼らは一夫一妻制の鳥です。しかも結構厳しい。おしどり夫婦なんて言いますが、おしどりは結構浮気するらしいですね。

 小川さんが白鳥を見に行ったとき、ペアになった白鳥同士が、動作をそろえて首を振りつつ、鳴き合い続けているのを見たそうです。鳥がなぜ鳴くのかというと、求愛のためというのが1つの理由なのですが、ペアになっているのに鳴く必要があるの?という疑問が生じますよね。

 一夫一妻制の鳥というのは、子育てのコストが高いのだそうで、相手に浮気なんかをされるとたまったものではない、ということらしく。つまり、「あなた、わたしのこと愛してるわよね?」「ああ、もちろん、お前も俺のこと愛してるよな?」「ええ、もちろん、さっきも確認したけど、私のこと愛してるわよね?」以下無限ループ、という感じで、鳴き続けているようなのです。(私の知っている例では、ペンギンが一夫一妻制の鳥ですね、周りの環境が過酷なので、浮気相手を探すより、ずっとペアを維持した方が子供を残せるという話を聞いたことがあります)

 ここで、小川さんが、”白鳥夫婦の動きがあまりにシンクロしている”という点を話題にされます。岡ノ谷先生は、それは”儀式化された行動”なのだと説明されます。儀式化というのは、最初は何かの目的があったのだけど、やがて目的が消失し、行動そのものが目的になってしまうという現象です。

 他に儀式化された行動で言うと、”威嚇”が挙げられるそうです。噛みつく気はないけど、口を開けてみせるとか。人間で言うと、バレンタインのチョコも儀式化された行動に該当するそうです。岡ノ谷先生はバレンタインのチョコについて次のように仰っています。

あれは完全に儀式ですよね。「愛を伝達したい」という意図を伝達している。裏返せば伝達されるべき愛の「内容」は実はもうなくなっているんですね(笑)

 白鳥はサボらず「愛を伝えたい」という意図を伝えているのに、人間はサボってるかもしれない、結婚して長くなると「愛してる」なんて言わなくなってきますよね。欧米では”I love you”と日本に比べて気軽に言い合ってるのは儀式化が成功しているからかもしれないと、小川さん。この点について、岡ノ谷先生は重要な指摘をされます。

コミュニケーションっていうのは必ずしも内容を伝えているわけではないということなんです。むしろ「コミュニケーションする意図自体」をコミュニケーションしている、ということなんです。

 この指摘は、私が大学でコミュニケーションの勉強をしたときにも、同様の指摘を本で読んだことがあります。内容ではなく、コミュニケーションしている事実をコミュニケートしているという趣旨のことが書いてありました。

  さて、2月も近くなりましたが、バレンタインの時にはこの話を思い出してみて下さいね。あと、やっぱり「愛してる」は照れくさいですね。